Sequential Audit Sampling with Statistical Guarantees

財務諸表の監査では、最初に抽出した標本だけでは結論の根拠が足りず、監査人が標本を追加することがあります。この追加を含めた手続き全体を、有限母集団からの非復元抽出のもとでの逐次検定として定式化し、判断を誤る確率に事前の保証を与えました。人工知能学会の金融情報学研究会で発表した内容を英語で書き直し、拡張したものです。

研究が扱う問題

監査基準は、最初の標本で十分な根拠が得られないときに手続きを追加することを認めています。国際監査基準の ISA 530 とその各国版がこの点を明記しており、米国の PCAOB AS 2315 や、GAO と CIGIE の財務監査マニュアルも同様です。なかでも GAO のマニュアルは、逐次抽出を定義したうえで、標本の拡張は結果を見てから決めるのではなく事前に計画すべきだと述べています。それにもかかわらず、追加を織り込んだ手続きを統計的にどう設計するかは、あまり整理されてきませんでした。設計のないまま標本を足していくと、誤った結論に至る確率を事前に抑えられません。

提案した方法

許容逸脱率を基準にして帰無仮説と対立仮説を置き、標本の追加をいつ止め、どちらの仮説を採るかという規則を定めます。母集団は有限で抽出は非復元ですから、標本に含まれる逸脱の件数は超幾何分布に従います。この分布のもとでの境界通過確率として、正確な逐次境界が満たすべき条件を書き下しました。実際に使うときは、判定が最も難しくなる逸脱率のもとでモンテカルロ計算を行い、境界を較正します。

主な結果と成立条件

正確な設計は、誤った判断を下す確率を事前に抑えます。モンテカルロによる実装は、この設計の近似にとどまりますが、期待停止時刻、つまり調べることになる標本数の見込みを計算できます。片側の検定や二段階の検定、途中で打ち切る設計への拡張も示しました。適用範囲は、逸脱の有無を数える属性抽出と逸脱率の監査であり、なかでも内部統制の運用評価です。金額単位抽出へ広げるには別の測定モデルが必要になるため、この論文では扱っていません。

先行研究との関係

逐次検定そのものは Wald にさかのぼります(1945年、Sequential Tests of Statistical Hypotheses)。有限母集団からの非復元抽出という設定に最も近い先行研究は Lai で、超幾何分布のもとでの逐次検定を詳しく調べ、三角形の継続領域を持つ簡明な検定を与えました(1979年、Sequential Tests for Hypergeometric Distributions and Finite Populations)。監査抽出の側では、Elder らのサーベイが、内部統制の運用評価を中心に逐次抽出が実務で意味を持つことを指摘しています(2013年、Audit Sampling Research: A Synthesis and Implications for Future Research)。Horgan は、リスト逐次抽出の方式を財務監査へ応用しました(2003年、A list-sequential sampling scheme with applications in financial auditing)。この研究は統計と監査の両方の系譜を受け、監査で使う許容逸脱率のもとでの誤り確率を明示的に抑える境界較正の方法を、有限母集団のまま実装できる形で与えます。

利用できる状況

内部統制の運用評価のように、件数を数えて逸脱率を判断する検査を想定しています。標本をどこまで増やすかを事前に決めておけるうえ、途中で止めた場合の誤り確率と、必要になる標本数の見込みも見積もれるので、監査計画の根拠として示せます。

論文と資料

BibTeX

@misc{sequential-audit-sampling,
  author       = {Masahiro Kato and Kei Nakagawa},
  title        = {Sequential Audit Sampling with Statistical Guarantees},
  year         = {2026},
  eprint       = {2604.06116},
  archivePrefix = {arXiv},
  url          = {https://arxiv.org/abs/2604.06116},
}

関連する研究テーマ

公開日: 2026年7月22日。最終確認日: 2026年7月22日。