AI・LLMと意思決定

LLM は流暢な文章を生成できますが、それだけでは意思決定の根拠になりません。このテーマでは、検索で集めた資料と明示的なモデル計算に分析の根拠を置き、LLM の出力を根拠までさかのぼれる意思決定につなげる方法を研究しています。中心となる成果は、経済分析を生成するエージェント枠組み AI Economist Agent(Kato, 2026, arXiv:2606.20041)です。

扱う問題

経済分析を例にとると、アナリストの主張には理論とデータの裏付けが求められます。LLM に分析文を直接書かせると、この裏付けが失われ、どの資料とどの計算から結論が出たのかを後から確かめられません。そこで、分析の計画から、根拠の検索、モデルの選択と計算、報告文の生成までを別々の部品に分け、数値的な主張は言語モデルではなく明示的なモデル計算から出す、という構成を設計しています。検索には RAG と知識グラフを使い、生成された報告文の各主張を、取得した資料と計算結果へ結びつけます。

意思決定そのものを扱う研究もこのテーマに含めています。行動ごとに類似事例をベクトル検索で集めて成果を推定する方法は、因果推論の近傍マッチングとして定式化できます(RAG を用いた方策学習)。また、LLM が持つ知識から因果関係の候補を、人が点検できる形で引き出す方法も研究しています。

中心となる研究

AI Economist Agent は、RAG と知識グラフ、経済モデル、LLM エージェントを組み合わせて経済シナリオ分析を生成する枠組みです。米国のインフレ持続性と金融政策に関するレポート生成、および商業用不動産の借り換えストレスを対象とする銀行ストレステストの報告文の生成で評価しました。

研究の系列

2026年
Vector Search As Nearest Neighbor Matching: RAG-based Policy Learning in Causal Inference。RAG による行動選択を因果推論の言葉で定式化した研究。
2026年
Causality Elicitation from Large Language Models。LLM から因果関係の候補を引き出し、点検できる形で整理する研究。
2026年
Which Algorithm Specification Formats Help Language Models Implement Machine Learning Algorithms?。アルゴリズムの書き方が LLM の実装精度に与える影響を測った実験研究。詳細はAIのためのナレッジ基盤で説明します。

先行研究との関係

検索した文書で生成を裏付ける RAG は Lewis らが2020年に提案し(Retrieval-Augmented Generation for Knowledge-Intensive NLP Tasks)、知識グラフを使って文書全体の構造を要約に生かす方法は Edge らの Graph RAG(2024年、From Local to Global)が知られています。これらは文書の検索と要約を対象にしています。この研究では、検索に加えて経済モデルによる明示的な計算を組み込み、数値的な主張を言語モデルに直接生成させない点が異なります。

ビジネスとの接続

この研究が対象にしているのは、AI に分析を任せたいが、結論の根拠を説明できなければ使えない、という状況です。市場分析やレポート作成の自動化、社内データと数理モデルを踏まえた分析支援、AI の出力に対する検証プロセスの設計などが当てはまります。こうした課題のご相談はお問い合わせフォームからお送りください。

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